思春期男子との心理療法事例に対して,別役実の『ベケットといじめ』を引用して「『孤』から『個』へ」と題して論考した.別役実があぶりだした「無記名性の悪意」が,「個」を「孤」として取り残し,主体であることを中止して生きざるを得なくなる状態といえる状態のクライエントが,主役としての「個」を回復するにいたるまでの心理療法が寄与しうる条件について考察し,今後の方向性を示した.