まず試論として3次元座標で提案したのは、インドネシア政治を分析するための3つの軸である。(1)x軸はイスラム色の強弱を示し(原点に行くほどイスラム色が強い)、(2)y軸は中央集権制の強弱を示し(原点に行くほど中央集権制が強い)、(3)z軸は貧富の差の強弱を示す(原点に行くほど貧富の差が大きい)。この3つの軸はインドネシア独立時からインドネシアを揺るがした政治勢力を表現している(x=イスラム政治、y=地方の反乱、z=共産勢力との権力闘争)。この3つの軸を数値化することができれば、時系列でインドネシア政治の変遷を「箱」(長方体)の体積が拡大し縮小することで示すことが可能となる(最大体積、つまりイスラム色が弱く、地方に分権され、貧富の差が少ない、がインドネシア民主政治の最大のポテンシャルであると仮定するので、この座標軸にはリベラル・バイアスがある)。
今般の発表では、x軸の強弱を利用して、最近の過激派と穏健派の駆け引きを分析した。まず、過激派の意味であるが、行動と思想それぞれが過激であるグループであるとした。例として、行動が過激なFront Pembela Islam (FPI)、またテロリスト集団であるJamaah Anshorut Daulah Khilafah Nusantara (JAD)、Jamaah Islamiyah (JI)があり、思想が過激であるHizbut Tahrir Indonesia (HTI)がある。しかし、HTIからJADを支え、シリアに渡りイスラム国に参加したBahrun Naimの例にみられるように、思想と行動を明確に分けることは難しい。ここ2年ほどのインドネシア政治では、相次ぐイスラム過激派によるテロ事件は継続して起こっており、同時にジャカルタ州知事選を前後にFPIやForum Umat Islam (FUI)のメンバーによる市民に対する脅迫事件が頻発している(同組織の幹部に対する侮辱をしたという理由で市民を脅迫、強制的に謝罪させる)。これに対する当局による取り締まりは後手になりがちである(例:2017年6月にジャカルタ・チピナンで起こったFPIによる少年脅迫事件)。一方、穏健派のNahdlatul UlamaとMuhammadiyah青年組織(Banser, GP Ansor, Pemuda Muhammadiyah)による似たような市民に対する脅迫事件も起こっており、両組織のリーダーが自らの青年メンバーをコントロールできない状況が続いている。
X軸は原点に向かうベクトルが強いように見受けられるが、これは過激派と穏健派による権力闘争の結果である。インドネシアには、市民感情を煽る反植民地主義を利用したイスラム団体による言説(例:鳥インンフルエンンザはイスラム教徒を抹殺するためにユダヤ資本とアメリカが製造しインドネシアに拡散したという言説)が受け入れられる土壌がある。さらに、政治家もイスラム教徒の感情と団体を利用して自らの権力強化を図る傾向は続いている(例:2016年2月ボゴール市長によるHTI開所式スピーチ、ジャカルタ州知事選時のイスラム教徒動員と扇動)。思想的には、インドネシアの理想国家像をめぐる駆け引き(国是パンチャシーラ対カリフ制)があるが、HTIの違法化により、パンチャシーラが優位になりつつある。この権力闘争の大きな節目が2019年4月に投票予定の国会選挙と大統領選挙であり、これに向けてさらなる駆け引きが起こり、インドネシア政治のx軸は左右に振れることなる。
http://meis2.aacore.jp/jr_islam_in_se_asia_20171217.html